メタバースで認知症を体験
メタバース開発などを行う株式会社アルファコードと静岡大学情報学部情報科学科の石川翔吾講師は27日、メタバース内で認知症患者の世界観を再現するPX体験プラットフォームを共同開発したと発表した。
PX(ペイシェント・エクスペリエンス)とは、日本語では「患者経験価値」と訳され、「患者が医療サービスを受ける中で経験するすべての事象」を意味する。
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メタバースプロダクトの概要
アルファコードと石川氏により共同開発されたPX体験プラットフォームは、同時に30人以上が接続可能で、体験者がVRゴーグルを着けることでメタバース内で活動できる。
ガイドが言葉や身振りで体験者とコミュニケーションをとりながら、任意のタイミングで心身機能障害により発生する体験を起こすことができ、幻覚や幻聴など認知症患者が感じているであろう感覚の一部を体験できるという。
同プラットフォームは、アルファコードが提供するメタバースソリューション「VRider COMMS(ブイライダーコムズ)」をもとに開発された。
VRider COMMSは、インターネット接続に制限があるイベントや学校・病院などの環境に最適化されたプロダクト。インターネット回線を必要とせず、通信遅延も最小限に抑えられている。
厚生労働省が、2025年に認知症患者は700万人になるとの見立てを示す中、今後は開発したメタバースプラットフォームの介護・医療職への活用を推進し、認知症の早期発見、認知症ケアの質向上に役立てていくとした。
体験会を開催
3月15日、石川県加賀市役所でPX体験会が開催され、24人の介護・医療従事者が参加。メタバース内の一室で、認知症の心身機能障害のうち「色々なものが人の顔に見える」「形や大きさを正しく認識できない」「聞こえないはずの音が聞こえる」体験をした。
参加者からは、スープの上に虫がいる体験などに困惑しつつも、認知症患者の見え方・感じ方に理解を示す声などが上がったという。
石川氏は「言葉だけでは理解したつもりに陥りやすいさまざまな認知症の方の認知体験を体験することで、認知症の方を深く知ることに繋がると思います。今後の介護教育の未来が拓かれたように感じました」と語っている。
政府のメタバースへの姿勢
医療分野にとどまらずあらゆる産業での導入が進むメタバースであるが、日本政府としてもイノベーション創出や地域創生などにいかしたい考えだ。
総務省は、「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」を発足し、メタバースの利活用や注意すべき点などについてこれまでに複数回議論を行っている。今年夏ごろに報告書が取りまとめられる予定とされる。
また、経産省は2022年12月にメタバースとNFT(非代替性トークン)の実証事業イベントを実施し、NFTを通じたイベント空間への入場やプラットフォーム間の連携を実証。メタバースやWeb3領域におけるクリエイターエコノミーの発展に向けた施策の検討に役立てる方針だ。
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2023年1月に開催された衆議院予算委員会では、日本各地で実施されているWeb3・NFT・DAO(分散型自立組織)の技術を活用した地方創生の試みを念頭に置いたDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進について、自民党の神田潤一議員に質問された岸田首相は以下のように答弁し、メタバースの活用に前向きな姿勢を示している。
デジタル技術が劇的に進化し地方においても便利さでは都市と遜色ない時代になりつつある。こうした時代だからこそデジタルの力を活用しつつ地域社会の生産性や利便性を飛躍的に高め、産業や生活の質を大きく高め地域の魅力を高めるチャンスであると認識している。
ご指摘のように最先端のデジタル技術をとりこむことで地域の活性化が進むことを期待したい。例えばメタバースは地理的制約を超えた活動や交流を可能とする技術の一つ。こうした新しい技術を活用することで新たな人的交流が生まれる、地域の暮らしやすさが向上する、こういった良い影響が期待される。
ご提案の点ですが、新しい技術の普及と発展を日本がリードするとともに、国民のリテラシーを高めるために国際イベントの検討を含め政策を前に進めることは重要であると認識する。
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参考:公式発表